◎吸い込まれるように読める、自然な流れの解析学読本 「近づく」や「連続」等の意味が,本書でよく理解できるようになる. 「曲線の長さ・面積・体積とは,本当は何なのか」という根源的な疑問を解決しつつ, 多様体論,複素関数論,楕円関数論など進んだ数学への展望を広げながら,微分積分学の核心へと誘う. 各セクションの最初には,そこで扱われる内容を象徴する「テーマ問題」を提示した. そして,その問題を解決する鍵となる概念や定理を紹介し,やがて解けるというストーリーを試みた. またk-フィボナッチ数列,k-パスカル三角形などの興味ある独自の題材を扱い,自分で数学を研究する 楽しみを追体験できるよう配慮した. 章末には,代数幾何学をリードしてきた飯高茂氏によるユニークな数学史のコラムがつく. 『大学への数学』2007年3月号にて、吉永良正氏が 「数学と統合学への夢」というエッセイの中で、 『微分積分 基礎理論と展開』を紹介してくださいました。 その紹介部分を以下に転載いたします。 「数学をやりたい」という気分が高まったところでテキスト選びですが、 何はともあれ解析学の基礎(微分積分学)と線形代数は一応クリアしておかなければ、先に進めません。 いまの大学生は恵まれていると思うのですが、解析にせよ線形代数にせよ、初学者用のテキストは 量・質ともにきわめて充実しています。書店で実物を手にとって自分が気に入った本を選べばいいでしょう。 ここでは春休みの独習用に、解析から一冊だけ紹介しておきます。 松田修著 『微分積分 基礎理論と展開』 (東京図書、2006年)。 この本は、ε‐δ論法の徹底した実践計算から始まります。普通は、というか旧来の伝統的なテキストでは、 高校数学から見るときわめて抽象的な実数論の展開の後、この論法の理論的解説があるだけで、 大学での「数学嫌い」を量産する一因ともなっているようです。 しかしこのテキストのように初めから体で身につけさせていけば、数学嫌いになる暇もないでしょう。 まずは手と頭を使ってアルゴリズムを習得し、理論的含蓄は後でしみじみと味わう というのは上手いやり方だと感心しました。 フィボナッチ数列の拡張である k-フィボナッチ数列とレムニスケートに関する話題を、 全巻を通して取り上げているのも、通読の助けになります。数学の本というのは途中で息切れがして、 通読がなかなか困難ですが、一つのテーマが次第に深められていくと、知らず知らずのうちに 付いて行けるものです。工夫のあるテキストといえましょう。 「著者の松田修氏は文系の大学に在籍した後、技術系の専門学校に入ってエンジニアをしてから、 理学部に入り数学を学んで理学博士号をとった苦労人であり、数学の分からない苦しさと 分かったときの鋭い喜びをよく知っている」 とは本書の監修者であり松田氏の指導教官であった飯高茂氏の言葉ですが、本書の魅力の源泉を よく伝えている紹介だと思いました。
■目次
第1章 ε-δ論法と微分積分への準備 第2章 微分積分学の基本定理の証明 第3章 逆関数と微分積分 第4章 微分積分の応用 第5章 数値計算法 第6章 多変数関数の微分 第7章 多変数関数の積分 第8章 偏微分法の応用 第9章 級数 章末コラム「数学史断章」(飯高茂)――古代エジプトの数学からグロタンディエクまで